利便性ゆえに普及が進むワイヤレスイヤホンにとって、音の遅延はこれまでなかなか克服できなかった弱点でした。XROUNDは2年前に完全ワイヤレスヤホンの開発を手がけた際にこの点に注目し、遅延という問題は解決が難しいだけでなく、どのように計測するかなどの方法論もかなり複雑です。
こういった現状を踏まえ、XROUNDはBluetooth低遅延技術を追求し、技術および計測方法、精度、異なるシステムによるデータや違いを分析し、その結果を3つの実測レポートでお届けします。
Part1:『Bluetooth遅延の計測について』(本文)
Part2:『理論値とiOS実測データ』▶クリック
Part3:『Android実測データ』▶クリック
※レポート内は市販の左右分離型ワイヤレスイヤホンから、8台を選び検証を行った結果に基づいています。公開データは認証試験機構 Allion Lab(ラボ.アリオン)によるものです。
|Bluetoothの遅延とは?|
「Bluetooth信号がデータ伝送を始めてから、受信側が受け取るまでの時間差」をここで「Bluetooth遅延」と総称します。
その流れについて、「ワイヤレス」と「有線イヤホン」による異なる点を画像でまとめてみます。(シューティングゲームプレイを例として)
有線の場合は、マウスをクリックすると、ゲームプログラムがマウスのコマンドを入力し、さらにデジタル音声信号を基本ソフト(以下、OS)に向け出力します。次にOSはデジタル音声信号を機器側のサウンドカード(DAC)に向けてアナログ音声信号をイヤホンに出力し、ケーブルを通じてイヤホンを装着した耳に音が届きます。
この間、データを伝送するプロセスで生じる時間差がすなわち、音声遅延といわれるものです。
ワイヤレスの場合は、OSがデジタル音声信号をBluetoothシステムに向けて出力する際、Bluetoothが無線で音声信号データを伝送できる帯域幅には限りがあり、Bluetoothシステムがデータを受け取ってからデジタル音声信号をBluetoothプロファイルの音声コーデックに圧縮し、受信側(イヤホン)に送信。そして受信側でそれを解凍してデジタル信号に変換し、最終的にデバイス上のDACに出力、音として耳へと届けます。
このプロセスはケーブル経由より多く処理時間がかかりますので、有線に比べた場合にワイヤレスの遅延が大きくなっている原因と考えられます。
|Bluetooth遅延を抑制するには?|
現在、Bluetooth遅延を抑制するために使われている技術には以下のようなものがあります。
1. 映像・音声同期技術
この技術はBluetoothのプロファイルの一つ、A2DPに依拠しています。特定のアプリやOS、イヤホンがすべて対応している前提で、送信側(スマートフォン)と受信側(イヤホン)が動画を再生している間、互いに再生時間を照合することで、画面を音声遅延に合わせる形を採りながら映像と音声信号を同期させ、人が感じる遅延を大幅に抑制することができるというものです。
- 長所:市販の完全ワイヤレス商品がほぼ対応(VERSA、AERO、AirPodsなど)
- 短所:システムとアプリがいずれも対応している必要がある。さらにゲームやタイピングなど使用者の動作に応じて音声を発するイベントには対応できない
2. 送信から受信側までシステム的に統合することで遅延を抑制
(イヤホン、スマートフォンを同一ブランドにする)
スマートフォンのソフトウェアをすべて自前で完結させているアップル社は、端末からBluetoothのチップまで全部独自に設計したものです。送信から受信側までシステム的に完全に統合されているため、ダイレクトに遅延を抑制することができるというわけです。
XROUNDが実測したところ、アップルのイヤホンをiOSシステムに接続した場合の遅延は、Bluetooth送信機(トランスミッター)やAndroid端末に接続するよりはるかに低遅延でした。
- 長所:ソフトウェアと端末側がしっかり統合され、実測の結果もかなり良い
- 短所:AndroidやBluetooth送信機に接続した場合の遅延はかなりのものになる
3. 特殊なBluetoothコーデックで遅延を抑制
Bluetoothコーデックの処理は音声信号データの伝送スピードに影響しますが、特殊なコーデックでデータ処理時間を短縮することが可能です。クアルコムが特許を持つBluetoothコーデック aptX™ Low Latency(aptX™ LL)、aptX™ Adaptiveや、これより発表の早かったCSR Fast Streamなど、特定のコーデックで遅延を抑制する効果があります。
- 長所:遅延の実測データは確実に抑制されている
- 短所:送信と受信側がいずれも対応している必要がある。実測値は公式に発表されている理論値に及ぶのは難しい
※ Bluetoothコーデックとは:
ワイヤレスイヤホンは無線でデータを伝送するため、立体音声の音源を再生するのはA2DPプロファイルを通じて信号を伝送し、それを伝送するビットレートはかなり制限されてしまいます。有線データ伝送がすべての信号をイヤホン側出力するのとは異なり、限りある帯域幅において、コーデックを圧縮する形式で音声信号を伝送します。以下は主流の3つの規格を紹介します。
1.aptX™ LL(Low Latency)
クアルコム特許コーデックaptX™の低遅延バージョンです。データ伝送ビットレートが276kBit/sまたは420kBit/sで、ビット深度は16 bit、サンプリング周波数が 44.1kHzで、一般のコーデックより遅延はかなり抑制されます。
公式には理論値の遅延を最小40msまで抑えられると発表していますが、規格的にはかなり特殊で、市販のスマートフォンはほぼ対応しておらず、特殊なBluetooth送信機のみ対応し、また対応しているイヤホンも少ないです。
2.aptX™ Adaptive
クアルコム特許コーデックaptX™の最新バージョンです。その時点におけるインターネット接続の安定性や、シーンによってビットレートを調整するaptX技術を活用します。公式に発表されている理論値の遅延は80ms、良好な接続環境においてハイクオリティの24bit/48kHz高解析データ伝送が可能で、データ伝送ビットレートは 276kBit/s または 420kBit/sです。
ただし、クアルコムの公式サイトによると、現在クアルコムCPU搭載の17機種のスマートフォンとVivo完全ワイヤレスのみ対応し、普及しているとはまだ言い難いと考えられます。
3. Fast Stream
2000年前後、クアルコムに買収される以前のCSRが開発したBluetoothコーデックです。公式に発表されている理論値は40msですが、CSR開発のチップにのみ対応しているため、大多数のスマートフォンは対応していません。特定のヘッドフォンと送信機だけが対応しています。
結論:
イヤホンと送信側の製品の双方がいずれも「同一のコーデック」でなければ得られない低遅延は、実際に実現するのはかなり難しいのではないかと考えられます。
4. 特殊なチップと技術で遅延を最低限に抑制
AEROワイヤレスが使用するのが「XROUND Low Latency™」という、受信側のBluetooth信号処理スピードに直接働きかける技術です。
チップ構造と独自の低遅延アルゴリズムを組み合わせ、受信側の処理スピードを向上させ、AAC & SBCのデコーディングスピードを改善することで、イヤホン側の遅延を抑えます。
- 長所:特定のスマートフォンやデバイスを使わなくても低遅延を実現可能。ラボでの実測遅延データは54ms
- 短所:送信側のチップのクオリティと安定性に多少影響されてしまう可能性あり
Part2:『理論値とiOS実測データ』
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